ドライスポット対策
ドライスポットの原因
ドライスポットは夏にサンドグリーンに発生しやすい現象で、グリーンがスポット状に乾燥して芝が黒ずんだり枯れたりするものです。土壌中の砂が撥水性となって水をはじき、保水性が極端に低下するために起こります。
土壌が撥水性となる原因は、フルボ酸やフミン酸などの高分子有機酸が土壌中の金属と結合したり変性したりして疎水性の物質となり、それが砂の表面をコーティングするように付着するからといわれています。サッチが堆積したグリーンや未熟な有機物を投入したグリーンに発生しやすく、グリーン全体には発生せずスポット的に現れますので、ある特殊な微生物(特に糸状菌)の作用によるものではないかと考えられています。
浸透剤のリスク
ドライスポットの治療には浸透剤がよく使われているのが現状です。浸透剤には大きく分けて2種類あります。一つは界面活性剤で、もう一つは保水性のポリマーです。この2つを混合している浸透剤もあります。
界面活性剤は効果がわかりやすく即効性ですが、たとえ非イオン性や植物由来の界面活性剤だとしても生物の細胞膜に少なからず影響を与えることが懸念されます。芝草の葉・茎・根だけでなく、土壌中の微生物、特に細菌は大きなダメージを受けると考えられます。私たちは細菌を殺すために石鹸で手を洗いますが、それと同じことです。良心的な浸透剤メーカーは芝草にストレスがかかる真夏には浸透剤を使用しないよう警告していますが、ドライスポットは梅雨明け以降に起こりやすくなるので、リスクを覚悟で使用している現場も多いようです。浸透剤は予防的に春先から梅雨時期まで継続的に使用することが推奨されているような例も見受けられますが、そのように長期間にわたって界面活性剤を投入し続けたら芝草の根や土壌のダメージは大きなものになってしまいます。
保水性のポリマーは直接的に芝草や土壌に害のあるものではありませんが、化学合成で作られた高分子ですので、たとえ生分解性のポリマーであっても多量に長期間与えると土壌中に蓄積してしまいます。(しかもサンドグリーンでは分解する微生物が少ない) また、日本の気候ではドライスポットの出やすい時期は5月頃と8~9月頃になりますがその間と前後に雨の多い時期が存在します。湿潤―乾燥―湿潤―乾燥―湿潤と繰り返されるような我が国の複雑な気候においては保水性ポリマーは湿害や藻の発生のリスクと背中合わせになります。過湿状態になれば、ボールマークもつきやすくなってしまいます。保水性ポリマーは米国では多用されているようですが、日本での使用は限定的になると思われます。
いずれにしましても、浸透剤は一時的にはドライスポットを改善するものの、根本的な治療・予防にはなりません。
根本的治療には完熟堆肥
ドライスポットの問題をを根本的に解決するためには、土壌中の微生物の働きを活性化させてサッチを分解することと、微生物バランスを改善して疎水性の物質を作り出す微生物の増殖を抑えることが大切です。そのための資材としては完熟堆肥が最も適しています。
サンドグリーンには有機物の資材は入れたくないとお考えの方もいらっしゃいますが、年月を重ねたグリーンの土壌表層にはサッチが堆積していますので、これを微生物で分解してやらないと非常に繊細な管理を必要とするグリーンになってしまいます。もちろん高度な管理技術をお持ちで、かつ多大なコストと労力をかける余裕があるのであれば、サンドグリーンを有機物なしで高レベルの状態で維持することは可能でしょうが、それは日本の気候と今日ゴルフ場が置かれた経済環境においては非常に困難な挑戦と言わざるを得ません。
完熟堆肥を加えたサンドグリーンでは、シルト(砂に含まれる細かい粒子)と有機物が生物的・化学的作用で団粒構造を形成し、透水性と保水性のバランスが取れた土壌を作ります。ですので、洗い砂よりもシルトの含まれる砂の方が良い土壌を作ることができます。エアレーションの度にシルトを含む砂と完熟堆肥を混ぜたものを目土として散布してよく擦り込むという作業を繰り返すとドライスポットが発生しにくく、かつ透水性のよいグリーンになります。
また、ドライスポットが発生してしまった時には粉末状の完熟堆肥を該当箇所にフルイなどを使って散布すると回復が早まります。